大判例

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札幌地方裁判所 昭和26年(ワ)503号 判決

原告 東西交易株式会社

被告 三栄商事株式会社

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金三十七万五千円及び昭和二十五年三月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「訴外オーケー商事株式会社は昭和二十五年一月十日金額三十七万五千円、満期昭和二十五年二月二十八日、支払地札幌市、振出地小樽市、支払場所株式会社富士銀行札幌支店、支払人被告三栄商事株式会社札幌出張所長池田孝一とする為替手形一通を拒絶証書作成義務免除の上自己宛に振出し、被告会社札幌出張所長池田孝一は同年一月十二日右手形の引受をなした。同訴外会社は同年一月十四日原告の前身である東光商事株式会社に対し拒絶証書作成義務免除の上同手形を裏書譲渡し同会社はその所持人となつたので満期支払場所において右手形を呈示してその支払を求めたが拒絶されたのである。その後同会社は新日本通商株式会社と善隣貿易株式会社と合併し原告会社を設立し原告会社は同会社の権利義務を承継し現に右手形の所持人である。よつて被告会社に対し右手形金及びこれに対する昭和二十五年三月一日以降完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による法定利息の支払を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、

被告の答弁に対し、「(一)被告会社の札幌出張所長池田孝一が被告会社の代表取締役又は支配人でないとしても、商法第四十二条により被告会社の営業の主任者であることを示す出張所長という名称を使用した使用人であるから支配人と同一の権限を有するものと看做される。だから同人のなした本件手形引受は有効で被告会社はその責任を負うべきものである。(二)原告は訴外オーケー商事株式会社に対し販売した角巻代金三百十九万四千円の内入として本件手形を取得したもので被告主張のように融通手形として取得したものではない。しかも原告は被告会社と取引其他の関係はなく被告会社と訴外会社との関係についても全然関知するところがなく全く善意の第三者である。」と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

「原告主張の事実のうち、原告が現に本件手形の所持人であることは認めるが、原告主張の日その主張の場所において本件手形を呈示し支払を求めたことは知らない、その余は全部否認する。本件手形の引受は被告会社の札幌出張所長池田孝一が被告会社の代理人としてなしたものであるが、右出張所長池田孝一は被告会社の取締役又は支配人ではなく単なる使用人に過ぎない。元来会社の出張所長は法律上或いは慣習上当然会社を代表する権限を有するものではなく、会社を代理するには特に代理権限の授与を要するものであるのに、本件手形の引受については被告会社は右出張所長池田孝一に何等代理権を与えてはおらないから、引受人である池田孝一自ら本件手形上の義務を負担するは格別、代理権限を有しない代理人の行為について本人である被告会社が手形上の義務を負うべき謂れはない。仮りに被告の右主張事実が認められないとしても、被告会社札幌出張長が本件手形を引受けたのは、単に原告会社の前身である東光商事株式会社に信用を与える目的でなされた所謂融通手形であるから、被告会社は原告の請求に応ずる義務はない。すなわち昭和二十五年一月上旬頃原告会社繊維部担当社員綱島某が同訴外会社代表取締役二口重雄に対し営業資金の融通を図るために利用したいから一時手形の交付をして貰い度いと懇望したので、右訴外会社は本件手形を自己宛に振出し、被告会社札幌出張所長に右の事情を話して引受けをさせたもので、原告会社の前身である前記会社はこれらの事情を承知し自己が手形所持人となることにより被告会社を害することを知りながら裏書譲渡を受けたものである。」と述べ原告の再抗弁事実を否認した。<立証省略>

三、理  由

証人二口重雄の証言により真正に成立したものと認めうる甲第一号証の記載に同証人の証言、証人池田孝一の証言を綜合すれば原告主張の日訴外オーケー商事株式会社がその主張のような為替手形一通を自己宛に振出し、原告主張の日その支払人である被告会社札幌出張所長池田孝一がその引受をなしたこと、同訴外会社が原告主張の日拒絶証書作成義務免除の上原告会社の前身である東光商事株式会社に対し右手形を裏書譲渡し同会社が満期支払場所で右手形を呈示しその支払を求めたが拒絶されたことを認めうることができる。右認定をくつがえすような証拠はない。

そこで池田孝一が被告会社の札幌出張所長として為した本件手形の引受が被告会社に対してその効力が及ぶかどうかについて判断しよう。被告会社は名古屋市に本店があつて、札幌市南一条西三丁目に札幌出張所を設けていたこと、本件手形の引受当時池田孝一が右出張所長であつたことは弁論の全趣旨に徴し明らかなことである。商法第四十二条によれば本店又は支店の営業の主任者であることを示す名称を附した使用人は支配人と同一の権限を有するものとみなされているから右札幌出張所が実質的にみて被告会社の支店と認められる場合でなければ(特に代理権を授与されている場合は格別として)札幌出張所長のなした手形引受について被告会社にその効力が及ぶものとは謂いえない。会社の企業規模、形態やその営む営業の種類、性質上又はその取引の行われる地域によつては、名称は出張所といつても実質的にみて支店と同様の営業活動が行われる場合もあろうけれども、一般的に会社の出張所がこのような実体を具えているものというわけにはゆかない、今本件についてこれをみるに、証人二口重雄同池田孝一の各証言を合せ考えれば右札幌出張所は被告会社の本店とその取引先との中継的な存在であり単に商品の売捌きやその代金の請求、受領等の限られた行為をしていたもので出張所長は極めて限定された範囲の行為しかなしえなかつたものであることが認められる。この事実に徴するときは同出張所は未だ支店としての実体を具えておらず、実質的にみて支店と同視することはできないものと認めざるをえない。したがつてこの点に関する原告の主張は採用できない。

しかも証人池田孝一の証言によれば本件手形引受について被告会社から代理権を授与されていなかつたことが認められる。

そうだとすれば被告会社の札幌出張所長池田孝一のなした本件手形引受は無権代理人のなした行為であるから、本人においてこれが追認をしたことの主張立証のない本件においては被告会社に対してはその効力がないものといわなければならない。

だから本件手形引受の有効なことを前提とし被告に対し手形金の支払を求める原告の本訴請求はその余の争点につき判断をするまでもなく失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯島幾太郎)

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